美しい発色とシルクのような艶、そして滑らかな肌触りが魅力のリバティ・ファブリックス。お気に入りの柄を手に取り、「何を作ろうか」と想像を膨らませる時間は、手芸を愛する方にとって至福のひとときです。
一方で、「薄くて繊細な生地を綺麗に縫い上げるには、どう扱うのが正解なのだろう」と、ふと手が止まってしまうことはないでしょうか。
今回は、リバティプリントの代表的な素材である「タナローン」を中心に、作品を美しく仕上げるための縫い方や取り扱いの基本をご紹介します。最適な針や糸の選び方から、迷いがちな糸色の合わせ方、縫いズレを防ぐミシンの設定、そして生地の風合いを損なわないための注意点までまとめました。ぜひお役立てください。
基本となる「薄地用」針と糸の選び方

リバティプリントの代表素材であるタナローンは、非常に細く上質な綿糸で高密度に織り上げられています。そのため、ミシン針と糸も生地の薄さに合わせたものを選ぶことが、美しく仕上げるための第一歩です。ミシン針は「9号(薄地用)」、ミシン糸は「シャッペスパンの90番(薄地用)」を使用します。生地の薄さに合った細い針と糸を使うことで、縫い縮みや引きつれを防ぐことができます。
柄物に馴染む、ミシン糸の合わせ方と万能カラー
色数が多くカラフルなリバティ生地を縫う際、どの色の糸を選べばいいのか迷う方も多いのではないでしょうか。基本のセオリーは以下の3つです。
1. 生地の地色(ベースカラー)に合わせる
最も基本となる選び方です。生地の背景となる地色と同系色の糸を選ぶと、縫い目が視覚的に一番溶け込みやすくなります。
2. 柄の中で一番面積が広い色に合わせる
幾何学模様や、地色がほとんど見えない全面プリントの場合は、生地全体を少し離れて見た時に「一番印象に残る色」や「面積が広い色」を選びます。
3. 迷った時は「やや暗め(濃いめ)」を選ぶ
2つの色で迷った時や、柄の境目を縫う場合は、少しトーンの暗い糸を選ぶのがおすすめです。明るい糸は濃い柄の上にのった時に「白い線」として浮いてしまいますが、暗めの糸は影のように落ち込むため、不思議とどちらの色にも馴染みます。
また、「どうしても色が決まらない」「たくさんの柄パーツをまとめて縫いたい」という場合に備えて、以下の万能カラーを揃えておくと大変重宝します。
・薄いグレー・シルバーグレー
寒色系やマルチカラー、白地の多色柄に。糸自体に影のような馴染み感があり、白系にも濃色系にも浮きません。
・生成り
パステルカラーや白地の可憐な花柄などに。純白よりも柔らかく生地に馴染みます。
プロの結論!基本は「地直し」のみでOK
いざ生地にハサミを入れるその前に、ぜひ確認しておきたいのが「柄の向き」です。リバティプリントは一見するとランダムに柄が散りばめられているように見えますが、実はデザインによって明確な「上下」が存在するものがあります。生地を無駄なく使い、作品の完成度をより高めるためにも、裁断前のチェックは欠かせません。
柄の上下の具体的な見分け方については、以下の記事で詳しく解説しておりますので、ぜひ合わせてご覧ください。
https://www.merci-fabric.co.jp/post_mania/direction/
生地への負荷を和らげるミシンの基本設定
薄く滑らかなタナローンを縫う際は、事前のミシン設定を少し工夫するだけで、仕上がりが格段に美しくなります。

・縫い目の長さ(1.8 mm ~ 2.0 mm)
縫い目を少し細かく設定することで、薄い生地への針落ちの負荷が分散し、縫い目の引きつれ(パッカリング)を防ぎます。
・上糸調子(やや弱め)
糸調子が強いと、縫い糸が生地をギュッと引き込んでしまいシワの原因になります。下糸とのバランスを見ながら標準より少し緩めましょう。
・押え圧(やや弱め)
押えの圧力が強すぎると、送られる際に上側の生地だけが押され、上下の生地にズレが生じやすくなります。
さらに、実際の縫製作業において縫いズレやシワを防ぐための「5つのコツ」をご紹介します。
①ピン打ちの工夫(細針・垂直打ち)
普通地用のマチ針は太く、タナローンの繊細な糸を傷つけたり針穴が残ったりすることがあります。「シルクピン」や極細タイプのマチ針を使用し、仕上がり線に対して「垂直」に打つことで、縫いズレを最小限に抑えられます。
②ハトロン紙を重ねて縫う
どうしても縫い縮みや生地の巻き込みが起きてしまう場合は、生地の下にハトロン紙(無地の薄紙や半紙など)を一緒に挟んで縫うのが最も効果的です。紙が補強材となって送り歯の引っ掛かりを防ぎ、縫い終わった後にミシン目からペリペリと簡単に破り取ることができます。
③手前で引っ張らない「両手のアシスト」
ミシンの手前で生地を強く引っ張るのはNGです。押さえの「前後」に軽く手を添え、針落ち位置を中心に上下の生地をごく軽く平らに張りながら、ミシンの送り速度に合わせてそのまま進める(送りを補助する)のが正しい手の添え方です。
④アイロンによる「事前の折り目つけ」と「縫い目のなじませ」
縫う前に縫い代をアイロンできっちり折っておくだけで、縫う最中に生地が滑るのを防げます。また、縫い終わった直後はすぐに縫い代を開かず、まず縫ったままの状態で上から軽くアイロンをあてて「縫い目を生地になじませる」と、仕上がりが格段に美しくなります。
⑤段差がある場所は「厚み足し」をする
縫い代が重なる厚い部分から薄い部分へ差し掛かるとき、押さえが傾いて目飛びやズレが起きます。押さえの後ろに畳んだハギレなどを挟み、押さえを水平に保つことでスムーズに乗り越えられます。
リバティ生地の魅力である滑らかな肌触りや美しい風合いを長く楽しむために、以下の扱い方には十分ご注意ください。
太い針や先が鈍くなった針をそのまま使うと、生地の糸がブチッと切れる「地糸切れ」や、針穴の周りが白く引きつれる原因になります。必ず新品の9号針を使用し、縫っている最中に少しでも「プチプチ」と引っかかるような異音がしたら、すぐに針を交換するのが鉄則です。
タナローンは極細の綿糸で作られているため、高温のアイロンを強く押し付けると生地がテカってしまったり、風合いが硬くなったりする恐れがあります。アイロンの温度は「中温(140〜160℃)」に設定し、必ずあて布を使用してください。折り目をしっかりつけたい場合は、蒸気をあてて軽く押さえる程度にとどめましょう。
お気に入りのリバティ生地は、作品を作った後に残る小さな端切れすら愛おしいものです。サイズに合わせて、最後のひとかけらまで無駄なく楽しんでみませんか。
小さな端切れ(数cm〜10cm四方)
パッチワーク、くるみボタン、生地貼り缶バッチ、マグネット、ファブリックシール(裏に両面テープを貼る)、ピンクッション

中くらいの端切れ(10cm〜30cm程度)
巾着袋、ミニポーチ、シュシュ、ヘアバンド、ハンカチ、コースター、バイアステープ作り

まとまった端切れ・形が不揃いな場合
ファブリックパネル、つけ襟やポケットなどの服飾パーツ

上質なリバティプリントを前にすると、「この美しい生地の魅力を最大限に引き出せるだろうか」と、ハサミを入れる瞬間に少し背筋が伸びるような思いがするかもしれません。
一見すると薄くて繊細なため、扱いがシビアに思われがちなタナローンですが、実は「上質な細い綿糸でしっかりと高密度に織り上げられた、とても素直な生地」でもあります。
アイロンの折り目がぴしっと綺麗に決まること。針通りが驚くほど滑らかなこと。どんな柄合わせや色の組み合わせでも、仕上がると不思議と上品にまとまること。これらはすべて、タナローンだからこそ味わえる手仕事の醍醐味です。
今回ご紹介した少しのポイントを押さえていただければ、作品をより一層美しい仕上がりへと導いてくれるはず。ぜひお気に入りの生地と糸を並べて、新たな作品づくりを楽しんでみてくださいね。
心ときめく生地との出会いはここメルシーで。